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難治性うつ病の最後の治療法(1)

うつ病の薬としてSSRIやSNRIが開発・販売された際には、これらの薬物への期待は非常に高いものでした。それ以前の薬に比べると、脳内の神経伝達物質の受容体選択性が高まったという点では、脳神経化学の発達の成果であると考えられます。しかし、このような抗うつ薬を患者さんに投与した場合の効果は、期待したほど良くはありませんでした。
うつ状態が多様化し、うつ病が増えているにも関わらず、対応が上手くできていないという状況の中で、精神療法が必要な人が増えてきていると考えられます。
うつ病の患者さんの中で、投薬によって寛解しているのはおそらく4割ほどで、効果が不完全な患者さんが2~3割、中には全く薬が効かないという人もいます。
難治性うつ病の全く薬が効かない2~3割の患者さんには、三環系抗うつ薬を組み合わせたり、リチウムやバルプロ酸といった気分安定薬を行うなどさまざまな方法で治療が行われていますが、完璧ではありません。このように、薬物療法によるうつ病治療の限界が感じられてくる中で、電気けいれん療法が再び見直されてきています。
現在の電気けいれん療法は、麻酔科の医師と共に行い、麻酔薬と筋弛緩剤を使って、けいれんを引き起こさない修正型電気けいれん療法(m-ECT)が行われています。そのため、患者さんが治療中に舌を噛んだり、圧迫骨折する危険もなくなり、高齢者でも使えるようになりました。一時的に健忘が起こることもありますが、1ヶ月程で戻るうえ、死亡や重度障害のリスクは5万回に1回程度と出産よりもはるかに低いとされています。
修正型電気けいれん療法を行う際には、本人の同意をとり、事前に血液検査や心電図をとることによって心臓病や器質的疾患がないことを確認します。
修正型電気けいれん療法を終了後1時間くらいはせん妄状態になって幻覚がでたりすることもあるため、看護師が患者さんをモニターしておくなど、治療は慎重に行うことが必要です。

見直される

うつ病治療では薬物療法や精神療法が主ですが、難治の患者さんや重度の患者さんには、修正型電気けいれん療法(m-ECT)も治療法の選択肢の一つです。
電気けいれん療法(ECT)は、1938年にイタリアで始まった治療法です。患者さんの頭部に電流を流し、人為的にてんかん発作のようなけいれんを引き起こすことで、統合失調症を治療します。1938年当時は、「てんかん患者さんは統合失調症を合併しない」と信じられていたため、統合失調症の治療に電気けいれん療法が行われました。
日本では、1939年に最初の電気けいれん療法が行われ、昏迷状態の統合失調症の患者さんや自殺念慮が強いうつ病の患者さんには劇的な効果があると期待されていました。
戦後、日本各地に精神科病院が設立されましたが、有効な治療薬がないことから、100ボルトの電流を数秒間流して、人為的にてんかん発作を起こす治療が行われていました。それ以前から、薬によってけいれんを起こしたり、インシュリンの投与によって低血糖状態にしてけいれんを起こす、薬であえて高熱を出してけいれんを起こすといった治療法も行われていたことも知られています。
また、病院内で暴れたり、指示に従わない患者さんに対して、懲罰として電流を流すという行為も行われていました。治療としてけいれんを起こす場合には、患者さんの目の前で大発作が起こることから、患者さんは大きな恐怖感を感じていたと考えられるでしょう。
以上のような背景から、電気けいれん療法は、精神科治療において、「非人道的な治療」というイメージを持たれてきました。
その後、様々な向精神薬が開発され、人権への配慮が高まるにつれ、電気けいれん療法は衰退していきました。現在では、薬物療法が精神医療の治療の中心になっており、電気けいれん療法を見たことがない若い精神科の医師も増えてきています。しかし、電気けいれん療法はいまも、難治性うつ病の治療を中心に利用されています。